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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)1182号 判決 1971年10月19日

上告人

古布村又治郎

代理人

神谷幸之

被上告人

加藤鉄蔵

主文

本件上告を棄却する

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人神谷幸之の上告理由第一ないし第三点について。

訴外春日商工株式会社は、昭和三三年九月一〇日株主総会の決議により解散し、その旨の登記が同月二〇日になされたごと、その解散にあたり清算人に選任されたのは上告人一人であつたこと、上告人は、右登記の日より後に右会社を代表して被上告人に対する貸金債権を上告人自身に譲渡したこと、以上の事実は、原審の適法に確定するところである。

そこで案ずるに、株式会社の清算人の員数は、法律上必ずしも二人以上であることを要せず、一人しか選任されなかつたときは、同人が当然にその会社を代表する権限を有するものと解すべきである。けだし、株式会社の清算人の員数は法定されていないからであり、商法四三〇条二項は、清算人について取締役会の規定を準用し、清算業務の執行は清算人会がこれを決し、代表清算人は清算人会においてこれを定めるものとしているのであるが、これは清算人が二人以上選任された場合に適用される規定と解されるのであつて、清算人会の制度が認められているからといつて、必ず清算人が二人以上でなければならないと解すべきではない。

それゆえ、清算人の員数は少なくとも二人以上必要であるとの前提に立つて、上告人が訴外会社を代表してした債権譲渡は無効であるとした原判決の判断には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、上告理由第一点は、その理由がある。

しかしながら、右違法は、原判決の結論に影響しないものといわなければならない。すなわち、本件記録によれば、当裁判所第二小法廷は、昭和四二年一二月一五日本件について名古屋高等裁判所がした判決を破棄し同裁判所に差し戻した判決の理由において、「株式会社の清算手続が清算人ひとりでこれをすることができるとしても、その清算人は、特段の事情のないかぎり清算会社と取引することは許されず、これに違反してされた取引は無効と解するのが相当であるところ(商法四三〇条二項、二六五条参照)、原判決は、右の特段の事情について判示することなく、本件債権譲渡を有効であると説示しているのは違法である。」と判示していたので、差戻を受けた名古屋高等裁判所は、前述の判断に加えて、第二小法廷の右見解に従つたうえ、商法二六五条の規定の適用を排除すべき特別事情にあたると解すべき事実は全証拠によつてもこれを認めがたく、本件債権譲渡はこの理由によつても無効である旨判示して上告人の請求を排斥していることが明らかである。ところで、上告審裁判所は、下級審裁判所が上告審裁判所の破棄理由とした法律上の判断に従つてした判決に対する再度の上告事件につき審判する場合には、その差戻判決に示された右判断に拘束され、その下級審裁判所の判決を違法視することは許されない(最高裁昭和二四年(れ)第二〇二九号同二五年一〇月二五日大法廷判決、刑集四巻一〇号二一三四頁、同二三年(オ)第九〇号同二八年五月七日第一小法廷判決、民集七巻五号四八九頁参照)から、当裁判所は、第二小法廷の右見解に従つてした原判決の右判断を違法視することはできないといわなければならない。そして、上告理由第二点は、第二小法廷が破棄理由とした右法律上の判断の違法をいうに帰するから、その論旨は、採用することができない。また、原審において取り調べた証拠関係に照らすと、商法二六五条の規定の適用を排除すべき特別事情にあたると解すべき事実は認められない旨の原判決の判断は是認することができるところ、同第三点は、原審の認定しない事実の存在することを前提として原判決の右判断の違法をいうにすぎないから、その論旨も、採用することができない。

以上の理由によれば、上告人の本訴請求は、すべて失当であるとした原判決は、結局、正当であり、本件上告は排斥を免れない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(松本正雄 田中二郎 関根小郷 天野武一)

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